例会報告
第64回「ノホホンの会」報告

2017年2月21日(火)午後3時~午後5時(会場:三鷹SOHOパイロットオフィス会議室、
参加者:致智望、山勘、恵比寿っさん、ジョンレノ・ホツマ、本屋学問)

早々に書感を投稿して万全の態勢だった狸吉さんが急な事情で欠席となりましたが、皆さんの投稿意欲はますます盛んです。遠からぬところに春も来ています。それにしても、1920年代のタンゴの音色には魅了されました。この時代にすでに成熟期を迎え
ていたアルゼンチンのタンゴ音楽文化の高さがよくわかります。狸吉さんの「語彙力こそが教養である」は、次回に発表をお願いします。


(今月の書感)

「土と内臓 微生物がつくる世界」(ジョンレノ・ホツマ)/「中国共産党 闇の中の決戦」(恵比寿っさん)/「日本人として知っておきたい「世界激変」の行方」(致智望)/「経済学と倫理学」(山勘)


(今月のネットエッセイ)

「口約束」(本屋学問)/「異常な情報処理能力」(恵比寿っさん)/「“持たざる者”同士の反感・離間」(山勘)/「脱デフレは“変節”浜田氏に学べ」(山勘)/「自然栽培と有機栽培」(ジョンレノ・ホツマ)


 (事務局)

 書 感

土と内臓 微生物がつくる世界(原題:The Hidden half of Nature)/ディビット・モントゴメリー+アン・ビクレー著・片岡夏実訳(築地書館 2016年11月発行 本体2700円)


著者はワシントン大学教授。地形の発達、地形学的プロセスが生態系と人間社会に与える影響を主要な研究テーマとしており、奥さんは、生物学者、環境プランアーであり、共著。


著者が購入した家の芝生の庭に、灌木や樹木を植え草花を植えようとしたら、地面の下はコンクリートのような氷礫土であった。堆肥を集め、木くずや落ち葉、ウッドチップ、スターバックスのコーヒーかす、動物園のdoo(うんち)など、5年かけて豊かな土壌に改善した苦労が描かれている。


しかし、奥さんのアン・ビクレーが子宮頚部細胞の癌になってしまい、手術を無事に終えた後、癌と食生活の関係を考えるきっかけが出来ます。それまでの体験を通じて、人間の体内の微生物の捉え方を見る目が変わってきた経緯を詳細な研究調査の結果を踏まえてまとめています。


植物の根と、人の内臓とは、全く結びつかないものでありながら、著者の視点から見えたのは、豊かな微生物の生態圏という中で捉えると、全く同じ働きをしていることが確認できたからである。


訳者あとがきからポイントを抜粋すると、コッホやパスツールらの病原体の発見以来、病原体としての微生物(細菌論)の考えに基づき、様々なワクチンや抗生物質が作られ、おかげで多くのひとの命が救われてきた。しかし、抗生物質の乱用は薬剤耐性菌を生み、また体内の微生物相を改変して免疫系を乱して慢性疾患の原因になっている。


同じことが、土壌でも起きている。有機物と土壌の肥沃度の関係に気づき、農地に堆肥や作物残滓などを与えてきた。科学者が、有機物に含まれる栄養分は植物の成長に寄与していないことを発見すると、化学肥料がそれにとって代わった。当初、化学肥料の使用で爆発的に収穫が増大したが、やがて収量は低下し、病気や害虫に悩まされるようになった。実は、土壌中の有機物は植物そのものではなく土壌生物の栄養となり、こうした生物が栄養の取り込みを助けて、病虫害を予防していた。と、うまくまとめています。


農地、土壌に棲む微生物へ、また、人の体内に棲む微生物へも、良かれと思われていた昨今の無差別攻撃を疑うきっかけが生じた。人間が行ってきた歴史を振り返ったとき、微生物の存在、働きを理解し、微生物を主体として見ると、食べ物や医療など良かれと手を加えてきたことがむやみに微生物に攻撃をしてきたことに気づき、見方が変わった。


一見飛びつきにくい内容、ボリュームでしたが、根底の微生物の動きからくわしく観察しており、経緯が凝縮されており、個々の内容は多岐に亘るので省略しました。

以下に目次の項目のみ列記いたします。


目次


はじめに-農地と土壌と私たちのからだに棲む微生物への無差別攻撃の正当性が疑われている


庭から見えた、生命の車輪を回す小宇宙

 死んだ土/堆肥を集める/夢にみた庭づくり/夏の日照りと冬の大雨/スターバックスのコーヒーかすと動物園の糞 手品のように消える有機物/花開く土壌生物の世界/五年間でできた沃野/庭から見えた「自然の隠れた半分」


高層大気から胃の中まで-どこにでもいる微生物

 どこにでもいる微生物/生き続ける原始生物/遺伝子の水平伝播もしくはセックスによらない遺伝的乱交/牛力発電


生命の探究-生物のほとんどは微生物

 自然の名前-リンネの分類法/ちっぽけな動物たち-顕微鏡の発見/発酵する才能-パスツールが開いた扉/生命の木を揺さぶる手-ウーズの発見/ウイルスの分類


第4章 協力しあう微生物-なぜ「種」という概念が疑わしくなるのか

 微生物の共生/細胞の一部でありながら一部ではない-ミトコンドリアと葉録体/マーギュリスとグールド/シンビオジェネシスー別個の微生物が合体する/生命の組み立て


第5章 土との戦争

 氷期のあとで/光合成の発見/最少律/小さな魔法使い/還元の原則-ハーバーボッシュ法とハワードの実践的実験/化学肥料はステロイド剤/触媒としての微生物/「農業聖典」とアジアの小規模農業/土壌の肥沃度についてのパラダイムシフト/第二次大戦と化学肥料工場


第6章地下の協力者の複雑なはたらき

 土中の犬といそがしい細菌/太古のルーツ/根圏と微生物/食べ物の力/植物と根圏微生物の多彩な相互作用/菌類を呼ぶ-植物と菌類のコミュニケーション/沈黙のパートナー-土壌生態学が解明する地下の共生・共進化


第7章 ヒトの大腸-微生物と免疫系の中心地

 がんが見つかる/手術後に考えたこと-がんと食生活/サケの遡上と川の環境/コーヒーとスコーンの朝食/がん予防の食事-ハイジの皿/美食の海で溺れる/食事をラディカルに見直す/食べる薬を栽培する菜園/ヒトマィクロバイオーム・プロジェクト/人体の中の微生物/大腸はなぜ免疫系の中心なのか


第8章 体内の自然

 減った病気と増えた病気/免疫の二面性/過ぎたるはなお/二つの免疫/恐れ知らずの探検家/   抗原という言語/炎症のバランス/微生物の協力者/共生生物の種/バクテロイデス・フラギリスの奇妙な事例/ちょうどよい炎症/太古からの味方


第9章見えない敵-細菌、ウイルス、原生生物と伝染病

 ポリオ/天然痘/センメルワイス反射

第10章 反目する救世主-コッホとパスツール

 シルクとパスツール/顕微鏡とコッホ/細菌の分離/細菌論のルーツ-培養できる微生物に限定される/奇跡の薬/奇跡の値段


第11章 大腸の微生物相を変える実験

 内側からの毒-腕内微生物と肥満/脂肪の二つの役割/腸内細菌相の移植/消化経路-胃・小腸・大腸の役割/ゴミを黄金に-大腸での発酵細菌の活躍


第12章 体内の庭

 プレバイオティクス/婦人科医療と細菌のはたらき/糞便微生物移植の効果/穀物の問題-完全だった栄養パッケージをばらばらにする/内なる雑食動物/食生活を変えて腸内の微生物ガーデニングを意識する


第13章

  ヒトの消化管をひっくり返すと植物の根と同じ働き

自然の預言者/減った栄養素/諸刃の遺産/ミクロの肥料/見えない境界線-根と大腸は同じはたらき


第14章 土壌の健康と人間の健康-おわりにかえて


(ジョンレノ・ホツマ 2017年2月13日)


中国共産党 闇の中の決戦/中澤克二(日本経済新聞出版社 2016年10月12日初版1刷発行 本体1,600円)


著者紹介 なかざわ・かつじ

宮城県仙台市出身 早稲田大学第一文学部卒。

1987年日本経済新聞社入社。政治部などを経て98年から3年間、北京駐在。

首相官邸キャップ、政治部次長の後、東日本大震災の際、震災特別取材班総括デスクとして仙台に半年ほど駐在。2012年から中国総局長として北京へ。2014年ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

現在、東京本社編集委員兼論説委員。著書に「習近平の権力闘争」。


プロローグ 天津の大爆発は「テロに違いない」

闇の中の天津大爆発

転機―習の驕りが招いた難局

南シナ海、危機一髪

しっぽが頭を動かすー北朝鮮に振り回される中国

習主席を悩ます、台湾「天然独」と香港「本土派」

危うい日中関係

令兄弟が持ち出した爆弾

李克強首相へのダメだし

あとがき


驕りゆえに難局を招いた習体制の現実と、激しさを増す共産党内の暗闘の裏側を日経記者が独自の取材から鮮烈に描く(裏表紙)。


「習近平の権力闘争」は致智望さんに先を越された(2016・1投稿)が私も読んでいたのでこれの焼き直しかなとも思いながら手に取ったが、一部にはニュースソースとして重複があるものの、更に切り込んだ感じの内容で、一気に読了した。しかし、タイトルとしてはこちらの方が「習近平の権力闘争」にふさわしいくらいだと思う。


「改革開放の歴史で、その間の30年(文革が含まれる)の歴史を否定できない」との発言には、鄧小平が明確に否定した文革を肯定しているようにも聞こえる(物議をかもしたらしい)。反腐敗運動は文革と同じで、対抗勢力を叩き落として権力固めに繋げる(北京の政治通)わけで、習本人もそういう認識のように見える。


(第3章)南シナ海の全面敗訴は「仲裁裁判所は日本の右翼が独断で組織し、公平性を欠く」(中央TV)と八つ当たり。これは中国がいつも使う手で、国内向けである。中国は何してるのだと国民が怒るので予防線。こういう国も国民は不幸ですね(著書には書かれてない)。こういう場合、確率高く日本にお鉢が回るが、教育がそのようになされていて、日本を悪者にすれば、民意が落ち着くからである(これも書いてないですが)。

習が言い出した新しい「大国関係」は、今まで米国が主導してきた太平洋を中国と二分しようというもので、米国がそう簡単に受け入れられるものではないし、「偉大な中華民族復興」に向けた取り組みもあるが(シルクロード構想やAIIB)、これも考えようによっては、成功しても習の個人崇拝の具にされるように思えます。


(第5章)習は台湾統一を成し遂げ、毛沢東にも迫る大指導者として名を残したいところであるが、蔡英文(李登輝の二国論の起草者)総統の誕生により厳しい。習は昔、対岸である福建省の省長を務め、経済的な交流を深めてきたということから、自分が誰よりもこの問題の権威であると認識している。

 香港の実情に照らし、台湾の政権や国民がそんな習になびくとは我々からは全く考えられないのであるが…。台湾との関係が良い時には日本に強く出る(台湾の政治通)。今は強くは出られないですね。

(天然独とは「ひまわり」運動の主力、20~30代の若者。恫喝なんか効かない。香港の「雨傘」運動とはだいぶかけ離れている)台湾問題は香港のような一筋縄ではいかないですよね。これは日本にとっても良いことですね。


今年の党大会で指導部の人事が決まるが、毛沢東のように権力集中に成功しつつあるものの、人事を一人決めするにはまだまだ長老などの力は侮れない、ですね。

特に経済の減速や反腐敗運動の苛烈極まりなさは対抗勢力を中心に命がけの抵抗があるように思います。

集権が減速している。

また、李克強をないがしろにしているが、9千万人の党員の側としても、今は習に恨み骨髄でしょう。

何かありそうな予感。中国の政局から目が離せません。


あ、中国は「日本課」を廃止し、北朝鮮などと一緒の組織にしたそうです。日本も対応が難しい時代になったものですね。


(恵比寿っさん 2017年2月15日)

日本人として知っておきたい「世界激変」の行方/中西輝政(PHP出版 本体800円)


著者の中西輝政は、京都大学名誉教授で国際政治学の大家と言えよう。著者には、過去に注目される国際問題の書が出版されており、今の時期にふさわしい内容の書と言えよう。本書は、米国のトランプ大統領の選出、英国のEU離脱、ロシア、中国の台頭等、国際情勢変革の潮目にその歴史的な背景を追いつつ述べられた書で、内容は極めて濃いものであり、私は目から鱗状態に唖然とした心境に追いやられました。と言うことで、1度の読み切りで納得できる安直な内容ではないので、暫くは座右の書として置くことにします。


今回の英国EU離脱や米国トランプ大統領の選出は、民主主義による投票の結果であり、メディアなどでは大衆迎合の悪い面が強調されているとーように報道されている。しかし著者は、この論調を厳しく批判し、世界経済の仕組みとしてグローバリゼーションが進められた結果、貧富の差が生じて大衆が我慢の限界を超え、「切れた現象」と言い、このグローバリゼーションの矛盾が、やがては、資本主義経済の終焉に向かうであろうと予測している。


トランプ氏は、希代の戦略家であり現実主義者で、冷徹な計算に基づき「何でもあり」の大統領だから、日本人の多くは冷徹、かつ理性的なトランプ氏の戦略思考を見据えることができないであろう、日本の一部保守層のナイーブな甘い期待は梯子を外されると言う。プーチンは、トランプ氏当選後に早速「落とし前をつけろ」とすごんでいると言う、この事など、とても日本人が相手に出来る連中でない事を知るべきと著者は言う。


結果として何が起こるか、1つ目、中東秩序の混乱とテロの蔓延、2つ目、ロシア民主化の挫折と暗転、3つ目、中国の膨張と軍事大国化、4つ目、超大国アメリカの衰退と孤立、5つ目、EUの分裂と欧州統合の挫折の5点が考えられると言う。


この内、中国の軍事大国化は共産党体制の崩壊に繋がる国内的反動が予想され、世界の常識として言われるような航行の自由などを受け入れようものなら、その時点で習近平政権は倒れる。そして、プーチンのロシアによるクリミア占領は、いまや既成事実化し、とても21世紀の所業とは思えない、あからさまな侵略に対しアメリカと国連は何の歯止めをかけることができなかった。冷戦終了後のアメリカがこれほど世界中に介入を繰り返し、みずからも疲弊し衰退に陥ってしまった。その結果として、之ほどまでに愚かな大国になるとは著者自身も予想しなかったと言う。


EUに付いての記述である、英国の元首相サッチャーの遺言としてEUに加盟するなと言うのがあり、歴史的にドイツを信用出来ない事柄が述べられている、しかも直近の事実としてメルケルは東ドイツの生まれ、そしてプーチンは東ドイツ担当の秘密警察主幹であったと言うことで、プーチンとメルケルはロシア語、ドイツ語で相互に堪能で、意思疎通が自由に出来る仲と言う事実、ドイツとロシアは地下で通じていると言う。


ドイツは以前から産業界で人材不足の状況が続き、既にトルコからの移民で占められている、中東からの難民たちはこのトルコ人たちを嫌って、ドイツには基本的に行きたくない心境と言う。そこにドイツのメルケルは、オランダ始めユーロ圏に難民受け入れ政策を進めるので周辺国はメルケルに良い印象を持たないし、歴史的にもオランダなどは元々ドイツに対し好意的ではないと言う。


日本とドイツに付いても、日本が第二次世界大戦に引き込まれたきっかけは、ドイツが中国国民党に近代戦争を教え、南京事件の仕掛けを作った歴史事実なども記されていて、ドイツは日本の盟友と思っている日本人の甘さが述べられている。このドイツの立ち位置はNATOの存在に微妙な影を投じており、その辺りの事情を著者は詳しく述べている。この辺りは、英国のユーロ離脱問題などもメルケルは内心ほくそ笑んでいると言われ、その歴史事実が述べられており、とても私などの不勉強者が書感を述べる程の理解度は無いと思うので、後日、再度私見と書感を露わにさせて貰う事を許されたい。


本書の内容とは関係無い事であるが、日本が中国の産業近代化に躊躇していた時期に、ドイツ・フォルクスワーゲンは中国に進出し、莫大な投資を行った。以来、中国は急速に近代化が進み米国の産業界がそれに続いた時期に私は中国と電子機器の製造に加担していたので、良くぞそこまで遣るものだと思ったことがある。その時ドイツの経営者仲間の意見として、相手が汚かろうが、制度が不備であろうが、不確定問題は進出のチャンスの条件なのだと言う言葉は今も忘れられない。まさしく「君子危うきに近寄れ」なのだ。


(致知望 2017年2月16日)

 エッセイ 

口約束


音楽書をつくることになり、ある本から図版を転載する必要があって版元の有名音楽専門出版社に電話をした。一般的には書面で申請するのだが、著作権の担当者は口頭で快諾してくれ、転載願いも必要ないという。もちろん、出典を明記するのが条件だが少し拍子抜けして、さすがに老舗出版社は鷹揚だと感心した半面、将来事情が伝わらなくて厄介なことにならないかと一抹の不安も残ったものである。


詳しく調べたわけではないが、日本の出版社の場合、実際に出版契約書を取り交わしているのは全体の60%くらいだろうか、後は口約束と聞く。それに、契約しても印税を払わないところがあるそうだから、出版業界は相変わらず遅れているといわれそうだが、面白い話を聞いた。


知人がドイツの大手銀行の頭取と食事をしたときに契約のことが話題になって、その知人が欧米の契約社会の先進性と日本の古い商習慣を比較して、半ば自嘲気味に「日本人はちゃんと契約書を結ばずに口約束で済ませてしまうことが多い」といったら、「口約束は人間どうしの究極の契約だ。日本は進んでいる。日本人は本当に素晴らしい」と絶賛されて面食らったという。つまり、一度口に出したことは必ず守るという、相互信頼を前提とした信義を重んじる理想的な契約というわけである。


考えてみれば、契約書というのは、忘れたり、嘘をついたり、記憶違いやいったいわないで後から揉めることがないように、俗人どうしの取引については予め文書できちんと決めておく必要があるということで、つまり、欧米人はあまり信用ができない、程度の良くない人種だということになる。


それに現実には、国家間、企業間で契約を結んでも履行しないケースは多々ある。キリスト教には“神との契約”という絶対的な概念があるそうだが、「汝、姦淫するなかれ」という聖書の言葉にこれまでどれだけのキリスト教徒が背いてきたことか。欧米諸国が中東やアジア、アフリカで2枚舌、3枚舌を使ってどれだけ他民族を欺いてきたことか。そんな連中が相変わらず国際ルールを決めている。キリストもいっている。罪人に石を投げることができるのは、一度も罪を犯していないものだけだと。


昔、イギリスのBBC放送でやっていた社会風刺番組「モンティ・パイソン」にこんなのがあった。病院に血だらけの怪我人がやってくる。すると医者が1枚の紙を渡し、診察申込書を書けという。今にも死にそうなその患者がやっとの思いで記入すると、書類を見た医者は綴りが間違っているから書き直せと突き返す。おそらく当時のイギリスの世相を皮肉ったものだろうが、今もどこかで実際にある話ではないのか。


とにかくこの世の中、枝葉末節の形式にばかり拘り、肝心の中身がないものが多い。東京・豊洲の新市場問題しかりで、どんなに立派な契約書をつくっても完成したものがお粗末では話にならない。ものづくりに限らないが、乱暴ないいかたをすれば図面や契約書がなくても、結果的に良い製品ができ上がればそれでいいのである。だから先のドイツの銀行家は、たとえ口約束でも顧客の期待に十分に応える製品や作品をつくり続けてきた日本人の感性、日本の社会通念を高く評価したのではないか。


「西洋の技術史家たちは、自分たちの文化や技術こそが唯一の歴史だと考えてきた。しかし、日本の精密工学の研究開発の発展と拡がりを見たとき、そうした一種の愛国主義的思想は実に愚かなことだとわかった」


アメリカで出版されたある技術史の序文に書かれた一節である。一般的にこのような考えを持つ欧米人はきわめて少ないが、世界が日本に寄せる期待を裏切らないよう、この言葉を励みにいつまでも謙虚さを失わず、日本人の豊かな感性を存続させていってほしいものである。


(本屋学問 2017年2月6日)

異常な情報処理能力


「国のために死ねるか」自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動(伊藤裕靖著 文春新書 本体780円)の一節に次のように書かれています。


「交通事故などに遭った人がよく言っているが、人間は生命の危機が迫っていたり、極度の緊張状態に陥ると、高速回転した脳が異常な情報処理能力を発揮し、信じがたい視力や嗅覚を引き出すのかもしれない。


 すべてがスローモーションになり、見えるはずのない砲弾が見えている気になった。どこを飛んでいるのかが見えていたし、工作母船に迫り来る弾着のタイミングもなぜか判っていた。見えるわけがないが、私の脳には確かに、その映像があった。砲弾は工作母船の前方50mぴったりに着弾し、その瞬間、工作母船の船橋部窓ガラスはすべて吹き飛んだ」

――1999年3月22日、北朝鮮工作母船に対して、海上自衛隊イージス艦「みょうこう」に海上警備行動が発令され(同時行動していた巡視船は燃料不安により新潟港へ帰投してしまい)、みょうこうが工作母船を停止させる威嚇射撃を行っている場面の一部です.


私の人生で思い当ることが何度も何度もありましたので、「異常に高速な情報処理能力」って納得できるように思います。

①5歳の時、増水した多摩川で水泳して流されたとき

②8歳の時、田圃の上の斜面から脇の堀脇に逆さまに頭からずり落ちたとき

③52歳の時、中国出張中にタクシーが前の車に追突した時

④53歳の時、重慶で闇に中に頭から転落した時

etc.


①と②では母親の顔が浮かんで、これから死ぬのかな、とこの時間の凄く長かったこと。
③と④ではやはり家内の顔が浮かんで、何とか生還出来ないのかと考えながら回避行動をとっていたこと

そして、目の前の画像変化は一瞬とも思える時間にも拘らず、スローモーションで脳裏に焼き付いています。


これらは、異常なくらいの猛スピードで頭が回転しているから、結果として、目の前の事象がスローモーションで起こっているように感じたのではないでしょうか。


人間の情報処理能力って素晴らしいですね。日頃は如何に怠惰に脳が働いているか。毎日、高速処理が出来ないものか、出来たら素晴らしいことだなと、思います。皆様はこういう経験はお持ちじゃないでしょうか。

(恵比寿っさん 2017年2月15日)

持たざる者”同士の反感・離間


なんとも情けない話だが、年明け早々に始まった通常国会では、いきなり「格差」が論戦テーマになった。安倍総理が所信表明で、アベノミクスの成果として、所得「格差」が縮小し始めたと(余計なことを)言った途端に野党が食いついた。いわく、年収400万円以下の家庭の進学率は3割で、1000万円以上の場合は6割だ、生活保護家庭の子の4人に1人が生活保護を受けることになる、どこがアベノミクスの成果だ、というわけだ。


野党の肩をもつつもりはないが、今度、年金支給額がダウンする。医療費・保険料が上がる。年金ダウンの理由も物価がダウンしたからだ。ということは、アベノミクスが掲げた2%の物価上昇目標を達成できなかったからであり、安倍総理がアベノミクスの成果を自慢できる筋合いではなかろう。


最近、よく取り上げられる「推計」では、都市部の年収600万円の家庭で、子供2人を大学に行かせた場合、税金・保険料・教育費を除いた生活費は、生活保護基準を下回ってしまうという。たしかに今、社会を構成する中間層の崩壊・メルトダウンが進み、労働者の「総下流化」が進んでいる。ちなみに、政府統計で、年収600万円以上の給与所得者は18%である。これでは、それ以下の、なんと8割強の親は自力で子供2人を大学に行かせることが難しくなってしまうことになる。


さらに近年は、勤労者の低定収入化が進んでいる。そこで、これから顕在化するであろうと思われる新しい問題が、サラリーマンの中間層や低収入階層のなかでの「格差」である。注視すべきはそうした恵まれない階層のなかでの、わずかな「格差」が引き起こすであろう心理的な「軋轢」である。ありていに言えば、働いても報われないことへのいらだち、あきらめ、持たざる者同士の、わずかな「格差」への反応、ねたみ、そねみの心理的な葛藤である。情けない話だがそれが人間だ。


過去においては、「働くことは良いこと」だった。これは、古来、大方の日本人が認めてきた労働観であり価値観であり共通認識だったはずだ。また、昔の働き方には、「身を粉にして働く」などという表現もあったが、この言葉には、罪悪視どころか軽蔑、揶揄などの意味合いもなく、むしろ肯定、共感、さらには感嘆、敬服の意味合いすら込められていた。ところが、昨今では、そうした過去の勤労観の拠り処がにわかに揺らぎはじめ、多少ズルをしても楽をして暮らそうと考える不心得者も増えた。


さらにこの頃は、過酷な残業による電通の過労死問題にはじまり、日本を代表する大企業でも少なからず過重労働の実態があることが暴かれ、大げさに言えば、働き過ぎは罪悪だといった風潮さえ強まってきているようだ。その反面、社会福祉に頼って生活する人間が増えている。生活に困窮する人を支援するのがセーフティネットの社会福祉だが、小田原市の生活保護担当職員らが着用していた“保護なめんな”ジャンパー(この行き過ぎは許されないが)着用の“いらだち”に見られるように、残念ながら生活保護の不正受給者が増加しており、これに対する社会的な批判も強まっている。


中間層の「下流化」のなかで、まじめに働いても報いられないとなれば、正直に働く者ほど、自分の働きの無さ、自己嫌悪、無力感などマイナスの感情にさいなまれたりすることになる。同時に、まじめに働かない者や社会保障の不正受給者などへの嫌悪、反感、蔑視など、こちらも何の益もないマイナスの感情を強くもつことになりがちである。こうした感情のマイナス作用が、現実社会にとげとげしさとして現れ、人間関係や社会的生活の面でトラブルや事件に結びつく恐れさえ強まってくる。


この「階層の分断」に“くさび”を打ち込んだのがトランプ米大統領の選挙戦略だったのではないか。おまけに米国の場合は移民労働者の要素が加わって事態は複雑になる。輸入労働力を必要とするこれからの日本にとっても米国の例は他人事ではない。


ともあれ、中間層、低所得層の、あるいは弱者同士、“持たざる者”同士の社会的・感情的な反感・離間問題は看過できない問題だ。その解決方法は容易ではないが、今は、ここに大きな現実社会の問題が起きているということを、まず認識しなければならないのではないか。


(山勘 2017年2月18日)

脱デフレは“変節”浜田氏に学べ


「アメリカの首相になって帰国せり」(神奈川県 池田功 朝日川柳、2・17)。安倍首相とトランプ大統領の会談は、世界の注目を集める大舞台となった。両者が笑みを浮かべて見つめ合い、長々と握手する映像をみると、わが安倍首相も堂々たる役者ぶりに見えたり、どことなく“よいしょ”しているようでもあり、見守る日本国民には複雑な思いがあった。懸案の日米安保問題で、強固な連携が確認されたことは大きな成果だが、これも安倍首相のお手柄というより向こうの気が変わっただけの話でもある。今後は、トランプ流の気まぐれに振り回されない用心が肝要だ。

さて、日本の首相として帰国すれば、冴えないアベノミクスの現実が待っている。ところが安倍首相は、アベノミクスを自画自賛する。たしかに、直近の発表による昨年10~12月期の国内総生産(GDP)は、年率換算で実質1パーセントの増となった。第2次安倍内閣4年間のGDP成長も伸びてはいる。しかしアベノミクスが目指す消費者物価の2%アップの実現には程遠い。何より問題なのは、国民に経済成長の実感がないことである。成長を支えているのは輸出で、経済成長の中心である個人消費は落ち込んだままである。要するに庶民は景気回復の実感がないから財布のひもを締めたまま緩めないということになる。また、この安倍首相自慢の経済成長レースを世界の主要国と比べれば、日本の後ろを走るのはフランスとイタリアで、前を走るのはドイツ、その先にEU,カナダ、オーストラリア、米国、英国、スウェーデンがいて、さらにその先をトップで走るのはなんと国内騒然の韓国だ。

問題はアベノミクスの今後である。アベノミクスは、当面、経済成長を優先させて、再度の消費税引き上げは経済を冷やすと考えて先送りしている。たしかに、増税で国民がこれ以上財布のひもを締め直しては肝心のデフレ脱却が遠退いて景気回復どころではなくなる。そこでまず、経済成長の前段として、物価が上がらないままのデフレ状態からの脱却を目指した。そこまではいいとしても、問題はそのデフレ脱却を政府の経済政策でやるのではなく、日銀の金融政策に任せたことだ。つまり、歴史的な金融緩和で、通貨を市場にジャブジャブと出回らせ、物価を名目3パーセント、実質2パーセントに引き上げようという作戦である。この作戦を安倍首相に吹き込んだのが、浜田宏一氏(内閣官房参与、米エール大名誉教授)である。

その浜田先生が変節した。変節が悪ければ変心と言ってもいいが、大学者が理論を変えて政策を批判し、責任を転嫁するのだからやはり変節のほうがふさわしい。浜田氏自身が文藝春秋1月号や、朝日新聞(2月3日)などで語っているところによると、アベノミクスは最初の2年間はうまくいったが、次の1年間は手詰まり感が出てきたという。うまくいったのは、株価上昇や円安、失業率の低下だ。手詰まり感は、効果が次第に薄れてきてデフレが長引いたことだという。

しかし浜田氏の持論は、デフレは通貨供給量が少ないから起きる貨幣的現象だというものである。したがってデフレは大胆な金融緩和で脱却できると言ってきた。ところが現実にはデフレからの脱却もままならず、ましてやアベノミクスが目指した2%の物価上昇など望むべくもないという状況だ。

ここで笑えるのは、浜田氏の正直さである。米プリンストン大のクリストファー・シムズ教授の論文にびっくりしたという。その論文は、金融緩和をしても財政を引き締めたら効果は減るというもの。素人でも見当のつくことだが経済学者は難しく考える。これで浜田先生はかつ然としてさとり、金融の持論を撤回し、現状の手詰まり感を脱却するためには財政を拡大しろというのである。

経済論争は、ニワトリが先か卵が先かといった論争に似ており、経済成長が先か、財政建て直しが先かという、二択問題になる。まず経済成長を優先するなら国債で借金してでも国の財政投資を増やせとなり、景気の足を引っ張る増税、財政再建を優先する増税は絶対ダメとなる。浜田先生の新しい教えに従うならば、安倍首相は、日銀の金融政策に見切りをつけて、財政投資を考えるべきであり、その財源の捻出方法を工夫して経済成長を目指すべきであろう。

(山勘 2017年2月18日)

 
自然栽培と有機栽培


「土と内臓」を読んだ後、スーパーの有機野菜や自然野菜のコーナーの品揃えの前で何がどう違うのかが気になっていました。


そこで、野菜・果物の栽培に関していくつかの本を図書館で借り、目を通してみました。


奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家木村秋則の記録 石川拓治著 幻冬舎文庫 2011/4

百姓が地球を救う 安心安全な食へ“農業ルネサンス” 木村秋則著 東邦出版 2012/3

わたしの畑の小さな世界「奇跡のりんご園」の宝もの 木村秋則著 エスプレス・メディア出版 2015/7

すごい畑のすごい土 無農薬・無肥料・自然栽培の生態学 杉山修一著 2013/5

希望のイチゴ 最難関の無農薬無肥料栽培に挑む 田中裕司著 扶桑社 2016/2

野菜は小さい方を選びなさい 岡本よりたか著 など


全てに共通していたのは、自然栽培の農作物を目標に励んでおられる方の様子であり、自然農法に取り組まれておられる方の苦労・経緯や今後への決意を読み取ることが出来ました。

極力自然栽培の農作物を選んで食したいというか、自然栽培のものでなければ安心できないことを改めて認識した次第です。


有機野菜なら間違いなく安全と思っていたら、自然農法のことを知るにつれ、必ずしもそうでない場合があることを知り、更には、日本の野菜は耕地面積辺り世界一の農薬使用国であることを知り愕然としました。

ヨーロッパから日本に来るとき、日本の野菜は大量の農薬が使用されているから食べないようにという指示が出されている国もあるようです。


スーパーで普通に売られているリンゴとかイチゴなどは農薬漬けである事実も知りました。

遺伝子組み換え作物だけでなく、日本国内で収穫量を増やすために行われている農薬・化学肥料の散布の影響や、それに振り回されている実態の深刻さを認識すべきだと思いました。

(ジョンレノ・ホツマ 2017年2月21日)